「人生でほんとうに大切なこと」 精神腫瘍医との対話

「5年生存率5%」のがん患者が、がん専門の精神科医と共に歩んで来た「絶望の淵から希望の星まで」の道程

レジリエンス外来.61

「前に、有限なモノもつなげる意志が有れば無限になるっていう話をしたよね」

金井さんと食事をしながら「死生観」の話をしたことがありました。金井さんは「爪楊枝」を並べながら教えてくれます。

お能室町時代から現在まで続いているけど、能楽師の命には限りがあるわけだ。だから、「続いてきた」のではなくて、「続けたい」という意志を持つ者が「続けてきた」わけだ」

金井さんは、頭が良いので、とてもわかりやすい例え話をします。

有限なモノもつなげる意志が有れば無限になる。

命というモノは有限だけれども、

生きるということは無限にできるのではないか。

室町時代の日本人の死生観は、「生きたい!」だと思います」

金井さんは笑って続けます。

「「生きたい」です。「死にたくない」ではなく「生きたい」です」

稲垣先生は、金井さんの話に聴き入っていました。

金井さんの取材が終わった時に、稲垣先生が溜め息混じりにこう言いました。

「私、魂が5%くらい清められた気分です。魂の位が上がったような気分です」

金井さんのエピソードは、「人生でほんとうに大切なこと」の本の中では僅かに数行しかありません。

けれども、その僅か数行を書くために、稲垣先生は途方もない熱量の取材をしていたのでした。

そして、僅か数行でひとつの「死生観」を見事に描きました。

f:id:syukugami:20191023185506j:plain