「人生でほんとうに大切なこと」 精神腫瘍医との対話

「5年生存率5%」のがん患者が、がん専門の精神科医と共に歩んで来た「絶望の淵から希望の星まで」の道程

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それは偶然の再会でした。

 

稲垣麻由美さんの著作「人生でほんとうに大切なこと」の第1話、

─妹へ「ありがとう」のネックレス。駆け抜けた二十一歳。

の主人公である小宮聖斗さん(仮名)のお母さんと、再会したのは

今週水曜日の清水先生の精神腫瘍科外来折りでした。

 

会社を早退して国立がんセンターの緩和ケア外来を受診した私は、

精神腫瘍科外来の受付をすませて清水先生から呼ばれるのを待っていました。

私の受診番号が放送された時に、私の前に女性が立っていました。

それが、お母さんでした。

お母さんは、彼を見送った後も、2ケ月に一度程度、清水先生の外来を受診しているとのことでした。精神腫瘍科外来では遺族の心理ケアも行っています。

お母さんは私に聖斗さん(仮名)の写真を見せてくださいました。

 

写真の中の聖斗さん(仮名)はとても幸せそうでした。

 

「書籍という形になってくれたおかげで、ほんとうによかった」

お母さんはそういってくださいました。

 

お母さんとは鎌倉での出版記念講演会でお会いしたことがありました。

──「私は未だに生きている。けれども彼は逝ってしまった」

その時はそのことを、私は『負い目』のように感じてしまったのでした。

 

あれから2年ほどの時間が経ちました。

今の私は『負い目』のようなものを感じることはなくなっていました。

訪れる時が異なるだけで、全ての人に死は訪れることに改めて気づいたからです。

そして、私も当時の聖斗さんと同じように、『今の幸せ』を感じているからです。

 

お母さんを見送っ部屋に入った私は、清水先生にいいました。