コントレイル.7
「手段が目的になる。というのは、よくあることです」
私は清水先生に笑います
「私は人は「何者かになる為に生まれてきたのだ」と思うようになってしまいました。ヒーロー願望のようなものだと思います。まったく子供じみていますがね」
清水先生は、無言で話をうながします。
「そんな私が、ここがんセンターで沢山のヒーローたちに出会ったんです。
さまざまなものを失いながらも「生きる」ということを選択したヒーローたち。
さらには近い将来の「死」を受け入れる覚悟を定めるヒーローたち」
「そんなヒーローは、特別な人、つまり「何者」ではありません。普通の、無名の人なのです」
「二人に一人が、がんになるのですからね。二人に一人がヒーローです」
「ところで私の「ヒーローの定義」ですが、それは「語り継がれること」です。つまり、「物語になる」ということ。
ですから、清水先生のレジリエンス外来は、まさに私が求めていたものでした」
「私は抗がん剤の新薬開発の治験者となったことで、「世の中の役に立つ」という希望が叶ったことになります。 そして、稲垣麻由美さんの「人生でほんとうに大切なこと」が出版されたことで、精神腫瘍医の存在が知られるようになれば、そのことでも世の中の役に立つことができます」
「千賀さんは、「精神腫瘍学の兄」とかには成れるかもしれません」
清水先生は私を笑わせます。
「それに、「人生でほんとうに大切なこと」の登場人物として「語り継がれる」ことにもなりました」
「はい。清水先生の「忘れられない患者」にも選んでいただきました」http://www.asmss.jp/2019/syuuasahi0301.pdf
私も応酬して清水先生を笑わせます。