5%の5年間.3 死ななかったらどうしよう
もしかしたら、特攻に失敗した特攻隊員の気持ちというのは、こんな感じなのかもしれない。
大切な人たちに「5年生存率5%」という事実を告げて入院した私は、
彼らが悲しんでくれたことに感謝すればするほど、不思議な気分になっっていました。
もしも、5年以内に死ななかったら。
彼らの期待?を裏切ることになるのではないだろうか。
大騒ぎしていながら、もし死ななかったら、
騒ぎ立てた私は恥をかくことになりはしないか?
私はなんとしても、死を受け入れる覚悟を定めることにしました。
「能楽とは『生者と死者の邂逅』である」と教えてくれる彼の話から
我が魂の鎮魂について考えました。
不思議なことに、切羽詰まっているはずの私は、病床にいながら室町時代の歴史の勉強をはじめたのです。
大学の受験科目に日本史を選択した私は
日本史については知識があるつもりでした。
しかし、改めて学んでみて驚いきました。
室町時代、特に世に云う南北朝時代は、『生き残ることこそが正義』だったのです。
敵の敵は味方。昨日の友は今日の敵。裏切りは日常茶飯事。
そう『生き残ることこそが正義』
そこには、『美しい死』などは存在しない。
盛者必衰であるからこそ、生者必滅であればこそ、限りある命を生き延びる
まさに、目から鱗が落ちるとはこのことでした。
そして、ようやく親友の言葉が理解できたのです。
「能楽は鎮魂歌にして、だからこそ、生命賛歌でもあるのだ」
馬鹿馬鹿しい話のようですが、、私はこの言葉から
「たとえ、95%の確率であっても死を受け入れることなく、いやだからこそ、生き延びても良いのだ」 と思えるようになったのでした、