別れの悲しみよりも出会えた喜び
彼との出会いは、高校一年生のことだから、もはや、半世紀近くの前のことです。
高校を卒業してからは、互いに長らく音沙汰なし。
そんな彼のと久しぶりの連絡は、私の病気がきっかけでした。
5年生存率5%という絶望的な診断を受けた私は、
友人・知己に自分の病気を告げて、「さよなら」を云って回ったのでした。
「さらばよと別れし時にいはませば 我も涙におぼれほれなまし」
─あの時にあなたが「さらばよ」と云って別れてくれてたのなら、
私も涙に溺れていたことでしょう
→「さらばよ」と言ってくれなかったので、私は泣くになけない。
という歌を知って、きちんと別れを告げるべきと思ったからでした。
新聞社に勤めていた彼は、私のことを記した書籍
人生でほんとうに大切なこと がん専門の精神科医・清水研と患者たちの対話
を、新聞で紹介してくれただけでなく、病気を抱えて働く私の記事を寄稿させてくれました。
そんな彼の訃報に接した私は、不思議な気持ちになりました。
彼との思い出ばかりが浮かんできて、あまり、悲しくはないのです。
不思議な魅力を持った彼との出会い。
そんな彼から貰った言葉や思い出。
彼との邂逅自体が、とても幸せな出来事に思えて、私の人生の宝物に思えて、
彼を失った悲しみに、彼と出会った喜びのほうが勝っているようです。
ほんとうに大切な友人でしたし、これからもそのことに変わりはありません。
滅多に逢うことのなかった彼は、今でも変わらずにどこかにいるような…。
出会ってくれて、沢山の思い出を、一緒に過ごした時を、ありがとう。
そんな感謝と喜びで、今は胸が一杯です。