「人生でほんとうに大切なこと」 精神腫瘍医との対話

「5年生存率5%」のがん患者が、がん専門の精神科医と共に歩んで来た「絶望の淵から希望の星まで」の道程

2019-01-01から1年間の記事一覧

コントレイル.15

清水先生の表情というのは、 実は、その瞬間の自分の表情なのだ。 そのことに気付くようになったのは、 稲垣麻由美さんの「人生でほんとうに大切なこと」を読んでからです。 清水先生は、患者の心情に寄り添ってくれます。 そして、自分に寄り添ってくださる…

コントレイル14

私は整理します。 「がん患者やその家族に、『精神腫瘍医』の存在を知らせたい」 その想いを形にしたのが、「人生でほんとうに大切なこと」です。 けれども、その本が絶版の危機に瀕します。 そんな時に、その本を読んだ編集者が、「もしも一年後、この世に…

コントレイル.13

「先生「人生でほんとうに大切なこと」が、重版になりましたよね。これは、「もしも一年後、この世にいないとしたら」のおかげ、あの大宣伝のおかげだと思うんです」 私の言葉に、清水先生は、沈黙で先を促します。 「あの本の「おわりに」で、私と稲垣さん…

コイントイル.12

「私の肺がん細胞は、もう死んでいるのかも知れない」 そんなことを思わせるほど、CTスキャンで映し出される私の肺がんは、いつも「同じ形」をしています。 だから、私はこの肺がんと、「一緒に生きていける」つもりになっているのかも知れません。 今回、…

コントレイル.11

抗がん剤の新薬開発の治験者になると、治験薬の経過観察と定期的な検査を受けることになります。 2015年11月に始まり、2016年10月までの一年間の治験が終わり、追跡調査は始まりました。 定期的に血液検査やCTスキャンを受けます。 そして、アンケートに答…

コントレイル10

「星の王子さま」で、愛しむことで特別な存在を得ることや、誰かの特別な存在になることを知りました。 私の「人生でほんとうに大切なこと」は、 ようやくたどり着いた私なりの「死生観」なのだ。 あの頃の私は、そう思っていました。 しかし、今は少し違っ…

コントレイル.9

「何者かになる、ということは、多くの人にとっての「特別な存在」になる、ということなのでしょう」 私の説明を清水先生は納得してくれたようです。 「けれども「特別な存在」になることが、「何者かになる」ということならば、私には、何者かになる必要は…

コントレイル.8

http://www.asmss.jp/2019/syuuasahi0301.pdf 「おや、それでは私が千賀さんを選ばなかったら、千賀さんは「何者」にはなれなかったということですか?」 清水先生は片眉を動かして尋ねてきます。 「そうですね。選ばれなかったら残念だったかも知れませんね…

コントレイル.7

「手段が目的になる。というのは、よくあることです」 私は清水先生に笑います 「私は人は「何者かになる為に生まれてきたのだ」と思うようになってしまいました。ヒーロー願望のようなものだと思います。まったく子供じみていますがね」 清水先生は、無言で…

コントレイル.6

「そうなんです。カッコいいんです」 私も応えます。 「そのうえに、「世の為、他人の為になることをやることが良い」みたいで、さらにカッコいいんです」 「それでいろいろと悩むわけですね」 「はい。もしも、私(わたくし)の幸せが、公(おおやけ)の幸…

コントレイル.5

「人間は幸せになるために生まれてくる」 宮沢賢治の「教え」は、私の生きる指針となりました。 おかげで、私は「自分探し」をする必要がありませんでした。 「そんな私は大学生になって、久しぶりに「人間は何のために生まれてくるのか?」という問いに出会…

コントレイル.4

「しかし、機嫌が良い、というのは、別に「明鏡止水の境地」というわけではありませんので、機嫌はわりと簡単に悪くなります」 清水先生がうなずきます。 「簡単に良くなったり、悪くなったりするということは、「コントロールすることもできる」ともいえま…

コントレイル.3

自分にとっての「人生でほんとうに大切なこと」を、ようやく言語化できた時のことは、よく覚えています。 それは、去年の年末のこと、一年の最後の清水先生の外来の時間でした。 「先生、私の「ほんとうに大切なこと」というのは、「私の機嫌が良い」という…

重版出来

「5年生存率5%」 そんな私の周囲の人々は、どんな気持ちで居たのか?いよいよ5年目を迎える頃になった今、そのことを記録することには意味があると思います。 「末期の願い」 当時の私の希望は、いわゆる「末期の願い」として受け止められ、受け容れられた…

人生でほんとうに大切なこと

https://www.amazon.co.jp/dp/B076GTTQYH/ref=dp-kindle-redirect?_encoding=UTF8&btkr=1 がん専門の精神科医・清水研と患者たちの対話 がんは身体だけでなく、心(精神)をもむしばみます。 それは、がんが「未来を変えてしまう病気」だからです。 未来を失…

コントレイル.2

「もしも一年後、この世にいないとしたら」の売上げ?が、28000部を突破したということを、書店のPOPで知りました。 この成功の理由のひとつは、がん専門の精神科医、つまり、精神腫瘍医である清水研先生を、「死についてよく知る人物」とブランディング…

コントレイル.1

「この人はたくさんの「死ぬ人」と話しをした人だ。 この人は、死と親しい人だ。 だから、私も死ぬのだ」 清水研先生の初対面の感想です。 死神、というわけではなく、死と親しい人。 この人ならば、死について、よく知っているだろう。 私が死ぬ準備をする…

レジリエンス外来.71

首都圏のJR全線の利用者は、1週間でのべ1億人近いそうです。 と、いうことは、 この広告を1億人近い人が眼にすることになります。 本を買おうと買うまいと、 「がん専門の精神科医が存在する という情報を1億人が眼にする、 と、いうことになります。 「…

レジリエンス外来.70

「稲垣麻由美さんに書いてもらえて、ほんとうに幸福だった」 そのことを、みひろさんのPOPを見て、改めて思い知らされました。 何故なら、稲垣さんが記したのは「がん患者の闘病記」ではなく、「精神腫瘍医の症例記録」であるからです。 これは、著者が患者…

レジリエンス外来.69

みひろさんが清水先生に託した葉書を受け取ったのは、 清水先生の外来の時間でした。 みひろさんの葉書には 今年の7月に骨巨細胞腫が発現したこと。 読売新聞の記事で私のことを知ったこと。 清水先生から「人生でほんとうに大切なこと がん専門の精神科医…

レジリエンス外来.68

「レジリエンスの力は誰にでもあります」 清水先生は、そう断言します。 それは、医学的にも証明できることなのでしょう。 ただ、 「レジリエンスの力を持っている」 ということと 「レジリエンスの力を使える」 ということは、違います。 力、エネルギーは…

レジリエンス外来.67

もちろん、人生に勝ち敗けはありません。 けれども、 「自分の身体は、けしてがんに勝つことは出来ない」 と知った時の敗北感は、 人を俯かせるには充分だと思います。 いや、膝を屈してしまいかねません。 かつての私のように。 幸いなことに、私は国立がん…

レジリエンス外来.66

扉が開く毎に、別の「物語」が飛び込んでくる。 こうまとめてみれば、レジリエンス外来の現場は美しいもののように思うことができるかもしれません。 しかし、その「物語」の多くの語り始めは、 「後悔」から始まることが多いのではないか。 そのように思わ…

レジリエンス外来.65

本が出版されてしばらくしてからのことです。 清水先生から私たち宛に「嬉しい報告メール」が届きました。 「人生でほんとうに大切なこと」の本を読んだ出版者の方から、「生きることについて考えるような本を出しましょう」というお手紙をいただきました」 …

レジリエンス外来.64

もしも私が「清水先生が座る席」に座ったとしたら。 つまり、患者ではなく、ドクターの席に座ったとしたら。 世界は、どんな風に見えるのだろうか? 私はそんなことを想像してみます。 扉が開く度に、別の患者が現れます。 つまり、扉が開く度に、別の物語が…

レジリエンス外来.63

未来は、明日から始まるものではありません。 未来は、今から始まるものです。 今を生きることが、未来を生きることなのです。 死ぬまでは、生きることができるのです。 別れの時が来るまでは、一緒にいることができるのです。 そのことを、金井師と清水先生…

レジリエンス外来.62

能楽師は能面を依代にして、死者の霊魂を憑依する。 そして、その死者の人生を能舞台の上で生き直す。 そうやって能楽師は死者との対話を繰り返す。 能楽師は、「あの世」と「この世」を行き来する。 清水先生のレジリエンス外来を受診した時に、そんな変な…

レジリエンス外来.61

「前に、有限なモノもつなげる意志が有れば無限になるっていう話をしたよね」 金井さんと食事をしながら「死生観」の話をしたことがありました。金井さんは「爪楊枝」を並べながら教えてくれます。 「お能は室町時代から現在まで続いているけど、能楽師の命…

レジリエンス外来.60

金井さんは歴史的な背景から教えてくれます。 能聖とされる世阿弥によって大成された能楽は、安土桃山時代を経て、江戸時代には徳川幕府により「式楽」いわゆる「日本の芸能・芸術」と位置付けられたこと。 「お能の中の日本人は、室町時代の日本人ですね」 …

レジリエンス外来.59

稲垣先生の取材を受けるにあたって、金井雄資師は水道橋の宝生能楽堂を取材場所に選んでくれました。 能舞台の構造や能面(おもて)をつけた時に能面の眼=孔(あな)からの狭い視野の中で「何を目印にして舞台に立つか」などを、実際の橋掛かりや能舞台で説…