レジリエンス外来.60
金井さんは歴史的な背景から教えてくれます。
能聖とされる世阿弥によって大成された能楽は、安土桃山時代を経て、江戸時代には徳川幕府により「式楽」いわゆる「日本の芸能・芸術」と位置付けられたこと。
金井さんは明晰に語ります。
室町時代というと南北朝時代に始まり、戦国時代に入ってゆくという戦乱の時代でもありますが、足利義満の金閣寺などの北山文化、足利義政の銀閣寺など東山文化、そして信長や秀吉の南蛮文化と融合した安土桃山文化と、日本独自の文化が花開いた時代です。
「戦乱の時代ですからね、治安も悪い。飢饉や疫病などで、人の命は軽い時代だったでしょう。けれども、いや、だからこそ、人々は芸能・芸術に救いを求めたのだと思います」
金井さんは「見てきた」かのように話します。
金井さんと話していると、時々、彼が室町時代から生きているように感じることがありくます。
室町時代の人々の霊魂が、「能面」を依代として能楽師に憑依するのかもしれない。
金井雄資師の幽幻としかいえないような舞台を観た後には、特にそんな幻想にかられます。
「お能は、想いを残してこの世を去った人々、まさに残念に死んだ人々、それは英雄よりもむしろ敗者であったり、無名の人であったりしますが、そんな死者の無念を晴らす、荒ぶる魂を鎮める「鎮魂歌」といえます」
「草木国土悉皆成仏。という仏教の思想ですが、人だけでなく、動物はもちろん、植物まで成仏する、つまり仏になれる、ということを伝えるお能があります」
金井さんは、昆虫が成仏する様曲「胡蝶」のあらすじを一人芝居のように話します。
稲垣先生の眼がまた💓💓になったとき、金井さんがキーワードを放ちます。
「お能は、「鎮魂歌」であるが故に「生命賛歌」なのです」