「人生でほんとうに大切なこと」 精神腫瘍医との対話

「5年生存率5%」のがん患者が、がん専門の精神科医と共に歩んで来た「絶望の淵から希望の星まで」の道程

レジリエンス外来.60

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金井さんは歴史的な背景から教えてくれます。

能聖とされる世阿弥によって大成された能楽は、安土桃山時代を経て、江戸時代には徳川幕府により「式楽」いわゆる「日本の芸能・芸術」と位置付けられたこと。

お能の中の日本人は、室町時代の日本人ですね」

金井さんは明晰に語ります。

室町時代というと南北朝時代に始まり、戦国時代に入ってゆくという戦乱の時代でもありますが、足利義満金閣寺などの北山文化足利義政銀閣寺など東山文化、そして信長や秀吉の南蛮文化と融合した安土桃山文化と、日本独自の文化が花開いた時代です。

「戦乱の時代ですからね、治安も悪い。飢饉や疫病などで、人の命は軽い時代だったでしょう。けれども、いや、だからこそ、人々は芸能・芸術に救いを求めたのだと思います」

金井さんは「見てきた」かのように話します。

金井さんと話していると、時々、彼が室町時代から生きているように感じることがありくます。

室町時代の人々の霊魂が、「能面」を依代として能楽師に憑依するのかもしれない。

金井雄資師の幽幻としかいえないような舞台を観た後には、特にそんな幻想にかられます。

お能は、想いを残してこの世を去った人々、まさに残念に死んだ人々、それは英雄よりもむしろ敗者であったり、無名の人であったりしますが、そんな死者の無念を晴らす、荒ぶる魂を鎮める「鎮魂歌」といえます」

「草木国土悉皆成仏。という仏教の思想ですが、人だけでなく、動物はもちろん、植物まで成仏する、つまり仏になれる、ということを伝えるお能があります」

金井さんは、昆虫が成仏する様曲「胡蝶」のあらすじを一人芝居のように話します。

稲垣先生の眼がまた💓💓になったとき、金井さんがキーワードを放ちます。

お能は、「鎮魂歌」であるが故に「生命賛歌」なのです」

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