「人生でほんとうに大切なこと」 精神腫瘍医との対話

「5年生存率5%」のがん患者が、がん専門の精神科医と共に歩んで来た「絶望の淵から希望の星まで」の道程

別れの悲しみよりも出会えた喜び

彼との出会いは、高校一年生のことだから、もはや、半世紀近くの前のことです。 高校を卒業してからは、互いに長らく音沙汰なし。 そんな彼のと久しぶりの連絡は、私の病気がきっかけでした。 5年生存率5%という絶望的な診断を受けた私は、 友人・知己に…

5%の5年間. ドラマにならない話5

親しい人を亡くしたり、死を意識した人が 少し楽になれる「時間」の考え方に出会いました。 以下は、テレビドラマの台詞の一部です。 (視聴した方が書き起こしてくださったものを拝借しました) 親友の急死から1年たった主人公に、謎の男が語ります 「やり…

5%の5年間 ドラマでは語られることのない話4

親友の能楽師、金井雄資師はいいました。 「有限なものをつなげることで無限になる。 有限だからこそ、無限つなげていくことができるのではないか?」 能楽師の彼は店の爪楊枝を並べて、そう説明してくれたんです。 確かに何本もつなげていける。 それこそ、…

5%の5年間.ドラマでは語られることのない話 3

「進行性肺がん、5年生存率5%」という診断を受けて、 死を意識せずにはいられない日々を過ごしてきました。 「花は咲いておもしろく、散ってめずらしい」世阿弥 古語では 「おもしろい=趣がある、風流だ。素晴らしい」 「めずらしい=愛すべきだ。賛美す…

5%の5年間.ドラマでは語られることのない話

「つひにゆく 道とはかねて聞きしかど きのふ今日とは思はざりしを」 この歌は「伊勢物語」の最後を飾る歌。 「世の中に たえて桜のなかりせば 春の心はのどけからまし」 「散ればこそ いとど桜はめでたけれ うき世になにか久しかるべき」 と、反語表現が多…

5%の5年間.ドラマなどでは語られることはない

進行性肺がん、5年生存率5%の診断を受け、 放射線治療を33回、抗がん剤治療を合計26回受けました。 治療が成功したおかげで、5年を過ぎた今でも生きています。 おまけに、働くことさえできています。 ドラマなどでは、治療に成功し、命をつなぎ留め…

5%の5年間.死を受け容れる 5

5年生存率5%の期間が終了しても、死について意識しない日はありません。 「命に終わりあり 能には果てあるべからず」世阿弥の言葉です。 人の命は、必ず死ぬ。 そのことを、誰もが知識としては知っている。 けれども、知識で知っていることと、理解してい…

5%の5年間.死を受け容れる4

楽しみにしていた映画「TENET」を、デジタル配信でようやく観ることができました。 クリストファー・ノーラン監督は、「インセプション(字幕版)」でファンになり 「インターステラー(字幕版)「ダンケルク(字幕版)」 などを楽しんできました。 特に夢を扱う「…

5%の5年間.死を受け容れる。3

「もしも、親友が死んでしまうことを知ったら、どうするか?」 金井さんや大澤さんは、こんな課題に直面したことになります。 同じ年でもある3人は、知命の年を過ぎたこれまでの人生で、 人の死と直面した経験があります。 ちなみに、私も金井さんも両親を…

5%の5年間.死を受け容れる2

能楽師でもある金井雄資師とは、大学時代からの40年来の親友。 一方の大澤健次さんとは、2009年に出張先で出会ってからの付き合いです。 青年時代からの友人と知名を過ぎてからできた友人が、 良き友人になるであろうと、この二人を初めて引き合わせたのは…

5%の5年間 死を受け容れる1

人は必ず死にます。 そのことを、理(ことわり)として理解しているつもりでも、 現実のこととして受け容れることは、難しいことです。 しかし、5年生存率5%の診断を受けた私には、 死を受け容れる以外の選択肢はありませんでした。 とはいえ、私が死んで…

5%の5年間.⒖ 死んだらどうなるのか?

免疫学者であり能作者でもある多田富雄氏の著作『脳の中の能舞台』(新潮社)の中に、『日本の伝統』という小文があります。 『日本の芸能の中には、『老い』という主題が見事に結晶となっている。 能の『翁』はいうまでもないが、『高砂』や『老松』など祝…

5%の5年間.14 死んだらどうなるのか?

人は必ず死ぬ。 人が死ぬということは、 その人が誰かと共有した時間や感情も消えてなくなる、ということ。 それは、自分の中の時間や感情を失ってしまうということ。 それでも、自分と共有した時間や感情を、憶えてくれる人がいたとしたら。 好きでもない人…

5%の5年間.13 死んだらどうなるのか?

「5年以内でこの世を去るのだから、その覚悟をしなくてはならない」 その頃の私は、『何者』かになれずに死ぬことを、とても無念に思います。 ─しかし、『何者』とは何か? 私はそもそもの疑問を抱きます。 例えば、歴史に名を遺す。 歴史に名が遺るのであ…

5%の5年間.12 死んだらどうなるのか?

「命に終わりあり 能には果てあるべからず」 能聖と称される世阿弥の言葉です。 人の死について、色々と考えることができたのは、 肺がんになって自分の死と直面したおかげです。 死んでゆく者にとって、死になんの意味があるのか。 どんな死にざまをしよう…

5%の5年間.⒒ 死んだらどうなるのか?

「老いることも死ぬことも。人間という儚い生き物の美しさだ。 老いるからこそ死ぬからこそ、たまらなく愛おしく尊いのだ」 今年、大ヒットした『鬼滅の刃』の中の三百憶の男『煉獄杏寿郎』の台詞です。 武術の達人である鬼が、人間の武術の達人に『鬼になら…

5%の5年間 10 死んだらどうなるのか?

コロナ禍の下での国立がん研究センター中央病院は、面会禁止が続いています。 私は幸いにしてこの5年間は、命を無くすことはありませんでした。 勿論、これからのことはわかりません。 新型コロナウイルスでの肺炎は、容態が急変することが知られています。…

5%の5年間 9 死んだらどうなるのか?

人は死んだらどうなるのか? ↓ 人は死んだら何処に行くのか? この『何処に』と書いた時点で、霊魂の存在を認めていることになります。 ところで『霊魂』とか言い始めるとスピリチュアルな話のようですが、 私はお盆やお彼岸にお墓参りや盆提灯を飾るなどを…

5%の5年間.8 死んだらどうなるのか

人は死んだらどうなるのか? 人は死んだら、何処にいくのか? この問いに対して、日本人は独特の答えをもっている。 そのことを知識として得たのは、ノンフィクション作家の稲垣麻由美さんが 人生でほんとうに大切なこと がん専門の精神科医・清水研と患者た…

5%の5年間 7 死んだらどうなるのか?

「日本を取り囲むさまざまな民族でも、 死ねば途方もなく遠い遠い処へ旅立ってしまうと いう思想が、おおよそはいきわたって居る。 独りそういう中に於いてこの島々にのみ、 死んでも死んでも同じ国土を離れず、 しかも故郷の山の高みから、 永く子孫の生業…

5%の5年間.6 死んだらどうなるのか?

さて、『がん転移が起きるまでは働く』というトリガーが決まったところで 私は死んだ後のことを気にしはじめます。 死後の始末、葬式だのなんだのではなく、 人は死んだら何処にいくのだろうか?という疑問です。 人は死んだらゴミになる。 という論がありま…

5%の5年間 5 死ななかったらどうしよう

もしも、友達が、しかも親友が、5年生存率5%との宣告を受けたら。 しかも、それは占いや予言の類ではなく、統計解析の結果だとしたら…・ そして、その当人がその宣告を受け容れて『死を覚悟している』としたら。 私の親友だちは、そんな難問に直面してし…

5%の5年間. 5  死ななかったらどうしよう 

2015年の8月に「肺がん5年生存率5%」の診断を受けた私は 同年9月から2ケ月間、入院しての化学療法(抗がん剤投与+放射線照射) さらに、2015年11月から2016年10月まで、 通勤しながらの24回の新薬抗がん剤治験に参加していました。…

5%の5年間. 4  死ななかったらどうしよう 

大河ドラマなどの時代劇を観ていると、 歴史上の人物が、 ─なんとかして『朝敵』にはならないように、朝敵指定されないように。 と奮闘する姿が描かれることがあります。 足利尊氏は、後醍醐帝から『朝敵』とされました。 しかし、尊氏は後醍醐帝以外の皇統…

5%の5年間.3 死ななかったらどうしよう

もしかしたら、特攻に失敗した特攻隊員の気持ちというのは、こんな感じなのかもしれない。 大切な人たちに「5年生存率5%」という事実を告げて入院した私は、 彼らが悲しんでくれたことに感謝すればするほど、不思議な気分になっっていました。 もしも、5…

5%の5年間.2 死ななかったらどうしよう

5年前の心配事のひとつは 「もしも、死ななかったらどうしよう」というものでした。 降水確率が95%ならば、雨が降ることを確信します。 雨が降らない確率は5%しかない。 数字というのは客観的な判断を行う時には便利なものです。 ですから、同様に 5年…

5%の5年間.1

精神腫瘍医の清水研さんの新著「他人の期待に応えない」は、 ミドルエイジクライシスで生きづらさを感じている人たちに 「ありのままで生きるレッスン」を提案する本です。 その中で、私も「自らのがん体験と向き合って(清水先生に)人生後半の道筋を示した…

コントレイル100 他人の期待に応えない

誰かの役に立ちたい。 そう思っていました。 そして、病気になって考えました。 残された時間を、どう使えばよいのだろうか? 私が考えていた「誰か」とは誰のことだったのか? 考えたあげくに思いついた誰かとは、家族であり友人でした。 つまり、私の大切…

コントレイル99 コロナ禍

「人は死んだら、どこにいくのだろう。」 肺がんの宣告を受け容れた時、私が考えたことはそのことでした。 朝、目覚める時に、「あ、まだ生きてた」と思っていた時のことです。 (この感覚は今もありますが、シンドイのでだんだん気にならないようになります…

コントレイル98 医療麻薬

言葉は記号の一つですが、人は言葉に縛られます。 私は長い間「医療麻薬」という言葉に縛られていました。 5年前の入院時から、オピオイド系の鎮痛剤を使っています。 これはアヘンに含まれるアルカロイドのデバインから合成される半合成麻薬です。 麻薬及…