「人生でほんとうに大切なこと」 精神腫瘍医との対話

「5年生存率5%」のがん患者が、がん専門の精神科医と共に歩んで来た「絶望の淵から希望の星まで」の道程

2019-08-01から1ヶ月間の記事一覧

レジリエンス外来.31

私は「レジリエンス外来」のワーク2の問い2 「がんの宣告後の心の動き」を思い出しています。 来週の検査を申し込む→一週間後検査を受ける→一週間後に検査の結果を聞くと駄目。だから来週の検査を申し込む→一週間後の検査を受ける→一週間後に検査の結果を聞…

レジリエンス外来.30

そんな私の治療は、発現から2ヶ月後にようやく始まることになります。 治療開始まで時間がかかったのは、ひとえに病巣の位置が身体の深部にあることから、「生体検査」の為の「がん細胞の採取」が出来なかったからでした。 がん細胞の特定が出来なければ、抗…

レジリエンス外来.29

天気予報で、「降水確率が80%」であることを知って、ほとんどの人が雨具を用意するように、 「5年生存率が20%」と知った私は死ぬ準備を考えます。 しかし、雨ならばいつかはやみます。 けれども、私の死後も妻や子どもたちの人生は続きます。 私は50歳で父を…

レジリエンス外来.28

「どこの病院でも良いわけないでしょう! セカンドオピニオンを受けてよ。 一生に一回くらい私のいうことをきいてよ!」 妻は泣きながら続けました。 「あなたはもう諦めてるんでしょう。 でも、私は諦めてないからね」 私は、妻の愛情を嬉しく思いました。 …

レジリエンス外来.27

私の祖父は胃がん、父は食道がんで亡くなりました。 私のDNAにはがんで死ぬ遺伝子が引き継がれています。 ですから、私が肺がんで死ぬことは、自然なことです。 私はそう思いました。 ところで、私のがん病巣は心臓の裏側にあるとのことで、がん細胞の摂取が…

レジリエンス外来.26

清水先生は、毎日、死と向き合うがん患者のカウンセリングをおこなっています。 一方の稲垣先生も、「恋文」の著作を通じて死と向き合う日々を送ってきています。 なにしろ「恋文」は、激戦地を転戦する夫に、空襲などからもはやこちらも戦地と呼んでもよい…

レジリエンス外来.25

ワークシート2 問1 病気がわかったとき(告知を受けたまさにそのとき)はどのように考えて、どのような考えが浮かびましたか? 告知を受けたのは、最寄りの総合病院でした。 止まらない咳、続く微熱、左胸の痛みに、会社を午前中だけ休んで、つまり、午後は…

レジリエンス外来.24

がんセンターで毎日がん患者と向き合う清水研医師は、 「日本で一番たくさんのがん患者の物語を聴いた医師」と、呼べるかもしれません。 一方我らが「文筆家」稲垣麻由美さんは、かつて、たくさんの「成功者」の物語を聴いてきました。そして、稲垣さんは「…

レジリエンス外来.23

ワークシート2では、病気と向き合うことになります。 1,病気がわかったとき(告知を受けたまさにそのとき)はどのように感じて、どのように感じて、どのような考えが浮かびましたか? 2,その考えは(数日、数週、数ヶ月と)時間は、そのうちにどのように変…

レジリエンス外来.22

こんなことでは、周囲の期待に応えられない。 待ってくれていた仲間の輪に入れない。 そして、その事に自分が気づくということは、さらに自信を失わせることになる。 私は毎日毎日、確実に自信を失っていきました。 そんな私の話を聴いて清水先生は確認して…

レジリエンス.21

この頃、私は会社への復職を果たしていました。 といっても、産業医の指示で、勤務時間を短縮した「短時間勤務」でした。 さらに会社は、私に「重要であるが、緊急ではない案件」を担当させてくれました。とりあえずの「締め切りがない」案件の検討です。 私…

レジリエンス外来.20

そういえば、私が最初に精神腫瘍科外来を受診した時、 つまり、初めて清水先生と出会った時のことですが、 その場に隣席していた研修医さんから、次のように言われたことを思い出しました。 「がんは激しく痛む場合があります。あまりの痛さに「死んでしまい…

レジリエンス外来.19

「死なないつもり」で生きていた頃の私が、 一番嫌いなことは、 「老いる」ということでした。 「散りぬべき 時知りてこそ世の中の 花も花なれ 人も人なれ」 という、細川ガラシャの辞世に共感していました。 ですから、 「5年以内に95%の確率で死ねる」 と…

レジリエンス外来.18

私は沢山の「物語」と書きましたが、「エピソード」と表したほうが良いかもしれません。 私の少年時代。 私の思春期。 私の仕事。 私の家庭。 私の友人。 1から4のどの問いに対しても、 沢山のエピソードがありました。 「私には沢山のエピソードがある」 そ…

レジリエンス外来17

清水先生のレジリエンス外来では、患者が事前に清水先生から提供されたワークシートへの回答を準備します。 ワークシート1 1.どのような家族のもとに生まれて、どのように育てられましたか? 2.少年少女時代はどのように過ごしましたか? 3.思春期にはどのよ…

レジリエンス外来.16

稲垣さんは「文筆家」という専門家の立場から、がんの本は「出版すること自体が難しい」ということを教えてくれました。 闘病記であれば、有名人のものでなければならない。 ドクターが新しい療法を紹介する。 食べたらがんが治る食材を紹介する。 「がんの…

レジリエンス外来.15

私が私の遺書の執筆を託す「文筆家」として稲垣麻由美さんを選ばせていただいた最大の理由は、稲垣さんが、「戦地で生きる支えとなった115通の恋文」というノンフィクション作品の著書であるということでした。 この作品は、稲垣さんのご友人が保存していた…

レジリエンス外来.14

清水先生の「レジリエンス外来」を受診するために、 私がさまざまな「準備」を行なったのは、 もちろん「5年生存率5%」を信じていたからです。 私は残された時間を、無駄に使うわけにいかない。 残された時間を大切に使うには、どうしたら良いのか。 私には…

レジリエンス外来.13

私の「遺言」は、 私が残念に思い残すことを、 書き残すことが、目的です。 そのことで、この世を去る私は慰められます。 私を見送ってくれる人たちも、慰められるかもしれません。 しかし、私は、私のことを知らない人にも伝えたいことがありました。 「精…

レジリエンス外来.12

お能では、ワキという観客の代表役が、 シテという主人公から、彼や彼女の「物語」を聞き出します。 主人公は死者で、自分の生前の物語を語ります。 その構造が、清水先生のカウンセリングと同じように感じるのです。 つまり、清水先生の質問に答えることで…

レジリエンス外来.11

清水先生のカウンセリングを受けた時。 「死生観」という言葉を聞いた時。 何より、残りの時間には限りがある。 ということに気づいた時。 私は「夢幻能」を思い出しました。 「生者と死者の邂逅」 そう説明される日本の古典芸術能楽は、 独自の劇構造を持つ…

レジリエンス外来.10

私は「遺言」という言葉を使いましたが、 私が遺したいものは、 親しい者に遺すラブレターのようなもの、 というよりも 私のことを知らない人にも、 私の「無念」が伝たわるようなもの、 でした。 がんと宣告されて死ぬまでには、いろいろなステップがありま…

レジリエンス外来.9

このまま死ねばローンが終わる。 家族にはマンションと遺族年金を遺せる。 「早かったね。残念だけど、苦しまずに済んだね」 皆、そう言って見送ってくれる。 「だから、穏やかに死を迎える準備をしたい」 私がレジリエンス外来に求めたものは、 自分の人生…

レジリエンス外来.8

「どのようなご家族(ご両親)のもとに生まれどのように育てられましたか?」 私は第1問のさらに入口ともいえる両親、 特に父親への思いにとらわれました。 私は父のように死にたかった。 ということは、 父のように生きたかった。 ということになります。 …