「人生でほんとうに大切なこと」 精神腫瘍医との対話

「5年生存率5%」のがん患者が、がん専門の精神科医と共に歩んで来た「絶望の淵から希望の星まで」の道程

レジリエンス外来.28

「どこの病院でも良いわけないでしょう!

セカンドオピニオンを受けてよ。 一生に一回くらい私のいうことをきいてよ!」

妻は泣きながら続けました。

「あなたはもう諦めてるんでしょう。

でも、私は諦めてないからね」

私は、妻の愛情を嬉しく思いました。

この人と人生を共に生きることができたことを、

誇らしく思いました。

さて、私は、レジリエンス外来のワークシート2 問い2

「がん宣告を受けて感じた気持ちは、時がたつにつれて、どう変わりましたか?」

という問いへの答えを思い出しています。

がん宣告を受けた時に宿った「死を受け容れねばならない」という私の思いは、「がんの細胞検査」を待つうちに、さらに堅いものになりました。

そして、妻の言葉で、さらに強固なものになりました。

妻は私の未来を受け容れようとしていない。

私はその事実に気づいたからです。

私は、「私が居ない未来」を生きる「妻の未来」を考えました。

私の大切な妻が、後悔を抱いて生きていく、悲しい未来を。

それからの私は、治療については妻の方針に従うことにしました。

その結果、国立がん研究センター中央病院と縁ができたのでした。

がん治療について考えてみましょう。

そもそもの医療の治療とは、患者の病気や怪我を治癒することです。

患者本人の為に行われます。

けれども、がん治療は、

「患者の大切な人のために治療を受ける」

という場合があるように思いました。

「私たちは、あの人のために、最善の手を尽くした」

患者は、残された人たちが、そのように思えるような治療を受けるべきだろう。

私は、そう考えたのでした。

がん宣告を受けて、自分の死を受け容れようとする私は、そう考えたのでした。

思えば、私はなんとしても死を受け容れようと、自分に、死を受け容れさせようと、やっきになっていたのでした。

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