「人生でほんとうに大切なこと」 精神腫瘍医との対話

「5年生存率5%」のがん患者が、がん専門の精神科医と共に歩んで来た「絶望の淵から希望の星まで」の道程

レジリエンス外来. 37

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がん宣告を受けてからのがん治療は、いわゆる標準治療と言われる治療になります。

それ以上の治療を、私は望みません。

エネルギー保存の法則、というものがあります。

私は、その人が持つエネルギーには絶対量が決まっていると思っています。

だから私のエネルギーを無駄なことに使いたくありませんでした。

95%の確率で閉じられた56歳の私の未来のためにエネルギーを使うことは、私には無駄なことに思えました。

私は、私の治療以外のことに、私のエネルギーを使いたいと思いました。

そんな私は、新薬開発の治験に参加することにしました。

「白金製剤を用いた根治同時化学放射線療法の後に進行が認められなかった切除不可能な局所進行性非小細胞肺がん患者」

という、まさに私のがん向けの治験です。

もしも、私がその新薬開発に役立つことができたならば、私の命は誰かの命を救うかも知れません。

新薬開発の為には、その効果を実証する必要があります。効果が認められて初めて薬として認められるわけです。

私は、隔週に新薬抗がん剤を12ケ月投与する治験に参加しました。

治験に参加するということは、他の治療を受けないという選択をすることになります。

もしも、他の治療を受けてしまったら、その新薬抗がん剤の効果がわからなくなってしまいますからね。

私は治験を受けることを選ぶことで、他の治療を受ける可能性を潰しました。

私の治療のことで、迷ったり、悩んだりしたくなかったし、家族や友人を迷わせたり、期待を持たせたりしたくなかったのです。

そんな無駄なエネルギーを使いたくない。

エネルギーは絶対量が決まっているのです。

エネルギーは有限です。

私は残されたエネルギーを最大限に有効活用したいと思っていました。

エネルギーは、消えていく私ではなく、遺される家族や友人の為に使うことが、私にとってエネルギーの有効活用でした。

そうすれば、彼らの中で私は生きることができます。

なによりも、最長であと46ケ月しかありません。

私は通院しながら治験に参加しました。

そして通勤しながらの通院治療を受けているうちに、

私は、また、泣くようになってしまいました。

残されたエネルギーを最大限に有効活用したい、

そう思っても、

私の身体も精神も、私の思い通りになりません。

途方にくれた私を、主治医は精神腫瘍医の清水研先生に紹介してくださいました。

2015年の秋が深まった頃のことでした。

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