コントレイル.8
http://www.asmss.jp/2019/syuuasahi0301.pdf
「おや、それでは私が千賀さんを選ばなかったら、千賀さんは「何者」にはなれなかったということですか?」
清水先生は片眉を動かして尋ねてきます。
「そうですね。選ばれなかったら残念だったかも知れませんね。
でも、清水先生には、あの「人生でほんとうに大切なこと」に登場する「舌がんの患者さん」もいらっしゃる。他にも若い患者さんとか。
まあ、その中で選んでいただき光栄です」
私は少し口角を上げて続けます。
「ただ、そのこととは関係なく、「何者」にもならなくても良いのだということに気づくようになりました。それは、サン・テグジュペリの「星の王子さま」を読み返したからなのです」
清水先生が椅子の中で座り直します。
「「星の王子さま」は、
「特別な存在」だと思い込んでいた花が、
実は薔薇という「ありきたりな存在」でしかなかったことを知って落胆した王子さまが、
キツネから、たとえ「ありきたりな存在」でも、愛しみ続けることによって「特別な存在」になることを学ぶ。
という物語にも読めます」
私は「個人の感想」を展開しました。