コントレイル.9
「何者かになる、ということは、多くの人にとっての「特別な存在」になる、ということなのでしょう」
私の説明を清水先生は納得してくれたようです。
「けれども「特別な存在」になることが、「何者かになる」ということならば、私には、何者かになる必要はありません」
清水先生の顔に笑みが浮かびます。
「はは。そうです。私には、すでに沢山の「特別な存在」がいます。い家族、友人、例えば清水先生」
清水先生の顔が晴れます。
「そして、その人たちから「特別な存在」として扱ってもらっています」
「何者かになんかならなくても、特別な存在になることはできる。なにより幸せになることができる。そのことに気づいたのは、清水先生のおかげです」
「清水先生は、適応障がいで迷子になった私を、一緒に迷子になってくれました。清水先生のおかげでここまでたどり着きました」
去年の今頃、私は清水先生にそんなことを話していました。