「人生でほんとうに大切なこと」 精神腫瘍医との対話

「5年生存率5%」のがん患者が、がん専門の精神科医と共に歩んで来た「絶望の淵から希望の星まで」の道程

コントレイル.86

合本 竜馬がゆく(一)~(八)【文春e-Books】

清水研先生との「人生でほんとうに大切なこと」談義は、坂本竜馬に飛びます。

人生でほんとうに大切なこと がん専門の精神科医・清水研と患者たちの対話

 

「そうなんです。カッコいいんです」
 私も応えます。 

「世に生を得るは事を成すためなり。カッコいい」

 清水先生と私は笑います。
「そのうえに、

 「世の為、他人の為になることをやることが良い」

 みたいで、さらにカッコいいんです」

 

 清水先生が相槌を打ちます。

「それでいろいろと悩むわけですね」


「はい。

 もしも、私(わたくし)の幸せが、

 公(おおやけ)の幸せにつながるのならば、

 宮沢賢治坂本竜馬のそれぞれの教えを一つにできるのではないか、と」


 私が説明のためにノートに書いた「私」と「公」という字を、

 清水先生が覗きこみます。
「しかし、そのうちに私は大きな思い違いをしてしまうのです」

 顔をしかめる私に、清水先生が先回りします。

「ナニモノか問題ですね」
 清水先生がくすくす笑います。

 私はため息をつきます。
「そう。何事かを成すには、何者かにならねばならないという

「ナニモノ」という言葉に苦しめられます」
 私は眉をしかめてみせます。


「何者にもなれずに死んでゆく、何という無念なことか。

 いや、ほとんどの人が何者にもなれずにこの世を去るという、

 当たり前のことを、とても残念に思いました」

人生でほんとうに大切なこと がん専門の精神科医・清水研と患者たちの対話