コントレイル.6
「そうなんです。カッコいいんです」
私も応えます。
「そのうえに、「世の為、他人の為になることをやることが良い」みたいで、さらにカッコいいんです」
「それでいろいろと悩むわけですね」
「はい。もしも、私(わたくし)の幸せが、公(おおやけ)の幸せにつながるのならば、宮沢賢治と坂本竜馬のそれぞれの教えを一つにできるのではないか、と」
私が説明のためにノートに書いた「私」と「公」という字を、清水先生が覗きこみます。
「しかし、そのうちに私は大きな思い違いをしてしまうのです」
「ナニモノか問題ですね」
清水先生がくすくす笑います。
「そう。何事かを成すには、何者かにならねばならないという「ナニモノ」という言葉に苦しめられます」
私は眉をしかめてみせます。
「何者にもなれずに死んでゆく、何という無念なことか。いや、ほとんどの人が何者にもなれずにこの世を去るという、当たり前のことを、とても残念に思いました」