「人生でほんとうに大切なこと」 精神腫瘍医との対話

「5年生存率5%」のがん患者が、がん専門の精神科医と共に歩んで来た「絶望の淵から希望の星まで」の道程

コントレイル.6

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「そうなんです。カッコいいんです」

私も応えます。 

「そのうえに、「世の為、他人の為になることをやることが良い」みたいで、さらにカッコいいんです」

「それでいろいろと悩むわけですね」

「はい。もしも、私(わたくし)の幸せが、公(おおやけ)の幸せにつながるのならば、宮沢賢治坂本竜馬のそれぞれの教えを一つにできるのではないか、と」

私が説明のためにノートに書いた「私」と「公」という字を、清水先生が覗きこみます。

「しかし、そのうちに私は大きな思い違いをしてしまうのです」

「ナニモノか問題ですね」

清水先生がくすくす笑います。

「そう。何事かを成すには、何者かにならねばならないという「ナニモノ」という言葉に苦しめられます」

私は眉をしかめてみせます。

「何者にもなれずに死んでゆく、何という無念なことか。いや、ほとんどの人が何者にもなれずにこの世を去るという、当たり前のことを、とても残念に思いました」