「人生でほんとうに大切なこと」 精神腫瘍医との対話

「5年生存率5%」のがん患者が、がん専門の精神科医と共に歩んで来た「絶望の淵から希望の星まで」の道程

コントレイル74

この痛みの原因は、転移ではないことから、放射線治療抗がん剤治療によって寸断された神経や侵された神経が痛むのであろう、ということになりました。

その結果が分かるまでは半年程度かかりました。

 

ちなみに、その痛みは、5年後の2020年6月現在まで続いています。

 

しかし、全てのことにプラス面とマイナス面がある、といいます。

 

私は、この痛みのおかげで、「15分単位」で生命を感じることができるようになりました。

 

どういうことかというと…。。

医療麻薬のレスキュー薬(いわゆる頓服)は15分単位で呑みます。

痛みが始まるので(耐えられなくなる)とレスキューを飲む。

15分間、様子をうかがう。

痛みが鎮まらなかったら、再度、飲む。

これを繰り返す。

 

私は痛みが鎮まるまで、15分単位で自分の身体と会話します。

 

24時間のうち、16時間起きているとして、私の1日は64単位でできているようです。

私にとって1日は、とても長く感じます。

息を殺して痛みに耐えている時もじりじりと砂時計の砂が落ちているようです。

 

おかげで、私にとって例えば、1年前のことなどは、遥か昔のことのように思えるようになりました。

まるで、タイムマシンにでも乗っているようです。

 

また、私には「薬で消えた痛みはどこに行くのだろうか」という疑問がありました。

飲んでいる薬が医療麻薬だからでしょうか。痛みがあまりに鮮やかに消えるのです。

 本来、私が引き受けるべき痛みが私の中から消えたと思っていたら、実は知らぬ間にどこかで降り積もってしまっていて、いつか来るべき“精算する時“を待っている。そんな気がしてしまいます」

「千賀さんは痛みの大きなエネルギーを感じているので、薬で消えるとはとても思えないの

 ですね。代わりに何処かに降り積もって、いずれ代償を払う時が来ると思われるのですね」

「変でしょうか?」

「いえ、変ではありません。そういうふうに考えることを、心理学的用語では“公正世界仮説“という名前で、よくある考え方として説明されているほどです。

 何かの代償としてがんになってしまった。

 何かの代償で痛みが消える。

 そんなふうに思われる方はたくさんいらっしゃいます。

 日本人には「お天道様は見ている」という言葉があるようにとてもなじみ深い者です。

 この世界は自らの行いに対して公正な結果が返ってくる。という考えです」

 

私はこの痛みは、生命の代償として贖っている痛みだと、2020年の今、思っています。

 

人生でほんとうに大切なこと がん専門の精神科医・清水研と患者たちの対話

人生でほんとうに大切なこと がん専門の精神科医・清水研と患者たちの対話