レジリエンス
がん宣告は、「死なないつもり」で生きている私たちをいきなり「死」に直面させます。
しかし、現在の社会では「死」はとても縁遠い存在です。
ですから、いきなり「死」と直面した時に、人は精神的に大混乱に陥ります。
精神的なダメージは、患者本人だけでなく家族や友人・知人にまで及びます。
「死」というものは、その人の存在を、その人と過去に共有した時間ごと奪われるような気持ちになってしまうからです。
ですから精神的な混乱は本人だけの問題ではなくなってしまうのです。
現代に生きる私たちは、「死」との向き合い方を知りません。
がん患者やその家族は、精神的に大混乱に陥った状態で肉体的な苦痛への対処を選択することになります。
医師が提案する手術なり化学療法なりの治療方法や、苦痛に対する処方を選択せねばなりません。
「死」を意識するということは、自分の時間は有限であることを意識することでもあります。
残された時間を、どう使えば良いのだろうか?
その思いは、生まれて初めて陥った精神的な大混乱をさらに深めます。
しかし、そんな奈落の底に陥って暗闇の中でおびえてすくんでいる患者も、良き導き手との出会いがあれば、混乱を整理することができます。
死の淵に張り付いた視線を剥がして、今を観ることができるようになります。
これは「5年生存率5%」と宣告を受けた肺がん患者である私が、がん専門の精神科外来を受診してゆくなかで、精神腫瘍医である清水研医師とともに歩んだ道程を記憶に基づいて記録するものです。