「人生でほんとうに大切なこと」 精神腫瘍医との対話

「5年生存率5%」のがん患者が、がん専門の精神科医と共に歩んで来た「絶望の淵から希望の星まで」の道程

コントレイル72

人生でほんとうに大切なこと がん専門の精神科医・清水研と患者たちの対話

ここで、当時の私に対する清水先生のアプローチを振り返ってみます。

人生でほんとうに大切なこと がん専門の精神科医・清水研と患者たちの対話

の中で、著者の稲垣麻由美さんが「第七話 がんになったおかげで生れ変わることができた」 では、私が精神腫瘍科の外来で清水先生との出会いからが描かれています。

 

「先生、私、死ぬのが怖いんです」

 という私に対して

「当然のお気持ちだと思います。怖がっていいのではないでしょうか」

 という私にとって「思いがけない言葉」が清水先生から返ってきます。

 以下、「人生でほんとうに大切なこと」稲垣麻由美著より

 

「千賀さん、わからないことは怖いですよね」

「わからないこと、ですか」

「はい。死ぬこととはどういうことか、わからないですよね。

 それは経験していないことですから。だから人は死ぬのが怖いのかもしれません。

 中には、残してゆく家族のことを心配する気持ちを“怖い“と表現される方もいます」

「先生、私は泣くのです」

「泣いても良いのではありませんか?」

 

 当時の私は「5年生存率5%」を告げられて、

「5年以内に95%の確率で訪れる死を、理性的に迎え入れる」

 という、後の清水先生の言葉を借りれば

「騎手が無理やり馬をコントロールしようとしている」という状態にいました。

 

 騎手のコントールを振り切って馬は泣いていた。

 いわゆる「適応障害」の状況にいたのだと思われます。

 そんな私に、清水先生は、

「死ぬことは、わからないから怖い」→「わかれば怖くない(かもしれない)」

と、いうヒントを与えたのではないか、と、思われます。

 

 私の「日本人の死生観」を訪ねる道程は、精神腫瘍科外来の初診の時から始まっていたことになります。