レジリエンス外来.58
「ところで金井さんは何と言ってましたか?」
大澤団長の質問に、私は答えていませんでした。
金井雄資さんとは大学の入学式の時に知り合いました。
「スターというのは、こういう人のことをいうのだな」
私は金井さんのおかげで「本物のスター」を知ることになります。金井さんが姿を見せると、場が華やぎます。人が集まり、金井さんの話を聴きたがります。みんなは金井さんの側にいれば、遙か天空の彼方から彼を照らしている「あの光」が自分にも届くかのようにな気になるのでしょうか。金井さんの周囲には、いつも人が集まって来るのです。
「まったく金井さんは、花形満ですから」
赤いクーペで颯爽と現れては、みんなから笑顔を引き出し、また、爽快に去ってゆく。
若き日の金井さんのその姿は、漫画「巨人の星」の主人公星飛雄馬のライバル花形満そのものでした。
金井さんのおかげで、スターがいるおかげで、私は自分がスターではない、ということを若くして知りました。
金井さんのおかげで、世界はいろんな人たちで構成されている、ということを学びました。
そして、心から尊敬できる親友が居るということは、とても幸運であることも学びました。 私には後に大澤健二さんを含む沢山の大切な友人との出会いがあります。しかし、そんな出会いに恵まれない人もいるのです。 私は金井雄資さんとの出会いに感謝して、その幸運をひたすら喜びました。その喜びは未だに変わることはありません。今でも、金井さんと会うと、雨上がりの夜空を見上げたような気分になります。
そんな金井さんは、私を過保護なほど大切にしてくれます。今回の「千賀の本」も、「当然、千賀が主役」だと思っています。それが、シンデレラではなく、それどころか、白雪姫の七人の小人のうちの一人になった」 と知ったら、激怒しそうです。
私は少し心配しました。
しかし、本の構成を知った金井さんは言いました。
「今回は書かれる側だからな」
さらに出版された後に、感想を聞いてみました。
「稲垣さんは良く書いてくれた。だから、今度は千賀の番だ」
金井さんは、私の目を真っ直ぐ見つめて言います。
「千賀は生きるんだ。稲垣さんはそう書いている、千賀に生きて欲しいと書いている。生きてくれよ。千賀。そして、今度はお前が書けよ」
金井雄資師は、さらに私たちに、能楽について教えてくれました。