「人生でほんとうに大切なこと」 精神腫瘍医との対話

「5年生存率5%」のがん患者が、がん専門の精神科医と共に歩んで来た「絶望の淵から希望の星まで」の道程

一つ目の物語

レジリエンス外来.18

私は沢山の「物語」と書きましたが、「エピソード」と表したほうが良いかもしれません。 私の少年時代。 私の思春期。 私の仕事。 私の家庭。 私の友人。 1から4のどの問いに対しても、 沢山のエピソードがありました。 「私には沢山のエピソードがある」 そ…

レジリエンス外来17

清水先生のレジリエンス外来では、患者が事前に清水先生から提供されたワークシートへの回答を準備します。 ワークシート1 1.どのような家族のもとに生まれて、どのように育てられましたか? 2.少年少女時代はどのように過ごしましたか? 3.思春期にはどのよ…

レジリエンス外来.16

稲垣さんは「文筆家」という専門家の立場から、がんの本は「出版すること自体が難しい」ということを教えてくれました。 闘病記であれば、有名人のものでなければならない。 ドクターが新しい療法を紹介する。 食べたらがんが治る食材を紹介する。 「がんの…

レジリエンス外来.15

私が私の遺書の執筆を託す「文筆家」として稲垣麻由美さんを選ばせていただいた最大の理由は、稲垣さんが、「戦地で生きる支えとなった115通の恋文」というノンフィクション作品の著書であるということでした。 この作品は、稲垣さんのご友人が保存していた…

レジリエンス外来.14

清水先生の「レジリエンス外来」を受診するために、 私がさまざまな「準備」を行なったのは、 もちろん「5年生存率5%」を信じていたからです。 私は残された時間を、無駄に使うわけにいかない。 残された時間を大切に使うには、どうしたら良いのか。 私には…

レジリエンス外来.13

私の「遺言」は、 私が残念に思い残すことを、 書き残すことが、目的です。 そのことで、この世を去る私は慰められます。 私を見送ってくれる人たちも、慰められるかもしれません。 しかし、私は、私のことを知らない人にも伝えたいことがありました。 「精…

レジリエンス外来.12

お能では、ワキという観客の代表役が、 シテという主人公から、彼や彼女の「物語」を聞き出します。 主人公は死者で、自分の生前の物語を語ります。 その構造が、清水先生のカウンセリングと同じように感じるのです。 つまり、清水先生の質問に答えることで…

レジリエンス外来.11

清水先生のカウンセリングを受けた時。 「死生観」という言葉を聞いた時。 何より、残りの時間には限りがある。 ということに気づいた時。 私は「夢幻能」を思い出しました。 「生者と死者の邂逅」 そう説明される日本の古典芸術能楽は、 独自の劇構造を持つ…

レジリエンス外来.10

私は「遺言」という言葉を使いましたが、 私が遺したいものは、 親しい者に遺すラブレターのようなもの、 というよりも 私のことを知らない人にも、 私の「無念」が伝たわるようなもの、 でした。 がんと宣告されて死ぬまでには、いろいろなステップがありま…

レジリエンス外来.9

このまま死ねばローンが終わる。 家族にはマンションと遺族年金を遺せる。 「早かったね。残念だけど、苦しまずに済んだね」 皆、そう言って見送ってくれる。 「だから、穏やかに死を迎える準備をしたい」 私がレジリエンス外来に求めたものは、 自分の人生…

レジリエンス外来.8

「どのようなご家族(ご両親)のもとに生まれどのように育てられましたか?」 私は第1問のさらに入口ともいえる両親、 特に父親への思いにとらわれました。 私は父のように死にたかった。 ということは、 父のように生きたかった。 ということになります。 …

レジリエンス外来.7

死ぬ時に、人は走馬灯のように人生を振り返るとききます。 その「走馬灯」をきちんと語ることが、 「現在なぜ自分が混乱しているのか」 を理解する手がかりになるということなのでしょうか。 そして、「なぜ自分が混乱しているのか」を理解したならば、これ…

レジリエンス外来.6

レジリエンス外来で語る「私の物語」とは、 「病気になる前はどんなことを大切にしてきたのか」 そして 「病気になって、何を失ったと感じているのか」 を、言葉にしていきます。 これは、いわゆる「障がいの受容」と同じような構造といえるかも知れません。…

レジリエンス外来 5

レジリエンス外来を受診する前に、 私は半年ほど精神腫瘍科の一般外来を、隔週で受診していました。 私は新薬開発の治験で、抗がん剤の点滴をうけるために、隔週でがんセンターに通院してきました。 その折に、精神腫瘍科の一般外来を受診したわけです。 整…

レジリエンス外来.4

それまで私が受診してきた「精神腫瘍科一般外来」は、 患者が困っていることを緩和すること が、目的のようです。 ですから、「眠れません」と訴える患者にはクスリを処方する。 など、患者の要求に「対処する」ための「応急処置の場」であると、私は理解し…

レジリエンス外来.3

レジリエンス外来は、プログラムです。それで精神腫瘍科の一般外来とは異なり、清水先生は「がん体験後の二つの課題」を説明してくださいます。 「ひとつ目の課題は、悲しみ、怒り、苦しみという感情からめをそむけず、ちゃんと悲しむ、ちゃんと怒る、ちゃん…

レジリエンス外来.2

「肺がんです。5年生存率5%」 2015年7月のあの日。 国立がん研究センター中央病院呼吸器科で、そう告げられた時に、私の頭に浮かんだのは、マンションのエレベーターでした。 「棺桶は縦にしか乗らない」 だから、病院で死んで、そのまま斎場に運んでくれ。…

レジリエンス外来 1

「今の5年生存率は5%。手術はできません。抗がん剤と放射線を同時に施す化学療法で、5年生存率は20%程度でしょう」 その治療が終わりました。 私は治ることが無い病気になってしまいました。 「私のこれからの短い人生は、病気に染められてしまうだろう」 …