「人生でほんとうに大切なこと」 精神腫瘍医との対話

「5年生存率5%」のがん患者が、がん専門の精神科医と共に歩んで来た「絶望の淵から希望の星まで」の道程

コントレイル 飛行機雲

コントレイル.41

稲垣麻由美さんの「人生でほんとうに大切なこと」のコラムに次のような一節があります。 「考えてもみてください。精神腫瘍科の医師というのは、目の前に患者さんから、例えば『つらいです。あと半年の命なんです。もうどうすればいいのかわかりません』とい…

コントレイル.40

医師の目的は病気を治すこと。 そう考えてしまうと、 精神腫瘍医の目的は、がん患者やその家族の適応障害などの病気を治療すること になってしまうでしょう。 稲垣麻由美さんの著書「人生でほんとうに大切なこと」の最後の章は、清水研先生の「私が精神腫瘍…

コントレイル.39

とはいえ「死生観」がほんとうに必要だと思いはじめたのは、清水先生との対話を一年近く重ねたからです。 がんは私の人生の一つのエピソードに過ぎない。 そうです。 ほんとうは「死生観」を持っていても、いなくても、 死ぬことに変わりはありません。 私が…

コントレイル.38

「死を覚悟した人間」 といってもさまざまかもしれません。 清水先生と出逢った頃の私は、 死から逃れられないことを知って、金縛りのように立ち尽くしている頃でした。 「人生でほんとうに大切なこと」 の第四話に描かれる言葉。 「将棋で人生を語るとした…

コントレイル.37

もしも、私が出逢った精神腫瘍医が、清水先生でなかったならば…。 現在は違ったものになっていただろう。 そのことは断言できます。 「ああ、この人は自分のような人間を毎日みているのだ」 清水先生との初対面の場面で、 稲垣先生は「人生でほんとうに大切…

コントレイル.36

緩和ケア担当医と清水先生との相談で「減薬」の次のステップを始めることになりました。 最初のステップは、オキシコドンをナルサスに置換する、というものでオキシコンチンという麻薬成分の量を減少させるものでした。 次のステップとは、具体的には朝2錠夕…

コントレイル.35

もしも、逆の立場であったたなら。 私は自分が与えてもらったように、 誰かに与えることができるだろうか? 大澤さんが私に対して注いでくれた厚情を、 私は大澤さんに注ぐことができるだろうか? そんなことを考えたこともあります。 もちろん、気持ちは注…

コントレイル34

大澤さんの言葉は、私の「会社のお荷物になる」という恐怖心を払い退けます。 会社のお荷物になる ↓ 他人様に迷惑をかけること(恥ずかしいこと) ↓ 恥ずかしいことを続ける ↓ 恥知らず という私の「負のスパイラル」は止まりました。 なんのことはない。 私…

コントレイル33

「ビジネスマンは、常に100%のパフォーマンスを発揮することはない」 大澤さんは私に説明します。 「人生、晴れの日も有れば、雨の日もあります」 大澤さんはニコニコと話します。 「体調もそうです。身体はもちろん、精神状況にもアップダウンはあります」 …

コントレイル32

「会社のお荷物」になるか。 「家族のお荷物」になるか。 2016年の私は、その二択しかないように思います。 当時の私は、強くなり続ける痛みと、 強くなった痛みを鎮めるために、 種類と量が増えた鎮痛剤の副作用に苦しんでいました。 鎮痛剤の副作用には、…

コントレイル.31

「5年以内に95%の確率で死ぬ」 という宣告を受けた時に、 私は、私に親しい 「静かに大切な人たちとの時間を持つ」 という選択肢を取ることも考えました。 そうでなくても、「痛みを堪えて」あるいは「痛みを抑えて」働らくことは、簡単ではありません。 趣…

コントレイル.31

「5年以内に95%の確率で死ぬ」 という宣告を受けた時に、 私は、私に親しい 「静かに大切な人たちとの時間を持つ」 という選択肢を取ることも考えました。 そうでなくても、「痛みを堪えて」あるいは「痛みを抑えて」働らくことは、簡単ではありません。 趣…

コントレイル.30

まずは毎日働く。 通勤する。 会社にいる。 人と一緒にいる。 病気になる前にできていたことは、 簡単にできるはずでした。 だって、治療は終わっていましたから。 けれども、治療が終わっても、 私の病気が治ったわけではありません。 がんが身体の中に「い…

コントレイル29

迷惑をかけない。 ということではないかも知れませんが、 「長く患った末の死」 も、避けられるものならば避けたいものです。 家族の負担になりたくない。 家計を支えてきた者としては、どうしてもそう思います。 思えば私の父は、食道がんが発現して一年保…

コントレイル28

私が望まない「死に方」とは。 まずは「他人に迷惑をかける死に方」です。 ですから、「自殺」という死に方を、私は望みません。 実際には、がん宣告を受けた人は、そうでない人の20倍以上の確率で「自殺」という死に方を選択するといいます。 私は「自殺」…

コントレイル27

「どんな死に方をするかで、どんな生き方をしたか、 が決まるのかも知れません」 清水先生から、「死生学」のことを教えていただいた時に、死者が主人公である能楽を想い浮かべました。 すでに死んでしまったからこそ語ることができる、 「完結した人生の物…

コントレイル26

2020年を迎えた今、私は死ぬことが怖くなくなりました。 いえ、ずいぶん以前から、私はそんな「気分」で生きるようになりました。 清水先生とのコントレイルの結果にたどり着いた上記のような「気分」について、言葉にする作業に取りかかりたいと思います。 …

コントレイル25

清水先生の「患者仲間」である「みひろさん」に会えたおかげで、私はいつもとは違う気持ちで清水先生と対面することができました。 いつもと違う気持ち、というのは、 「清水先生は私だけの先生ではない」 という気持ちです。 つまり、いつもは 「清水先生は…

コントレイル24

昨日の清水先生の外来受診。 「みひろさん」からご自分も受診される予定であるという連絡をいただいたのは、月曜日の深夜でした。 「みひろさん」は、稲垣麻由美さんの著書「人生でほんとうに大切なこと」のお手製のPOPを作って、本を図書館に寄贈してくださ…

コントレイル23

CT画像を精査した結果、大きな変化はみられなかった。 良かった、がんはリンパ節に留まっていた。 私のがんは「休火山」のままでした。 だとすると、 あんなに気分が悪くても、 あんなに痛みがあっても、 別に死ぬわけでは無いのか。 失っても 失っても 生…

コントレイル22

今朝、迷わずにレスキュー薬を飲みました。 少しづつ、減らしてきたレスキュー薬ですが、 痛みで働けないのは困ります。 働らく場所があること。 働らくことができること。 誰かの役に立つこと。 誰かの希望になれること。 そのことに感謝します。 頑張るこ…

コントレイル21

治らない病気と一緒に生きている。 だから右肩上がりには、体調は良くならない。 そのことは、4年をかけて思い知ったはずでした。 しかし、先週末からの体調不良には、 思ったよりも落胆しています。 覚悟が足りていない、ということなのでしょう。 水曜日の…

コントレイル20

「天下泰平」「五穀豊穣」を祈念する「神事」ともいえる「翁」は、「能にして、能にあらず」といわれる不思議な番組ですが、今年も観ることができました。 「体調が悪い」のに水道橋の能楽堂に出かけて観能したことで、「体調が良くなる」かも知れません。 …

コントレイル19

今の俺はこれまでに無く体調が悪い。 俺はこれからどうなるのだろうか? わからない。わからない。 わからないことは、怖い。 ああ 今の俺は心が折れている 真っ直ぐに前を向け 己を鼓舞しろ がんばれ俺、がんばれ! 俺は今までよくやってきた 俺はできる奴…

コントレイル18

「残された時間を大切に使う」 そのためには「疼痛コントロール」は、大変重要な要素になります。 痛みに対して、弱いか強いかは人によって千差万別です。おそらく、私は大変弱い方かとおもわれます。 痛みを鎮めるには、鎮痛薬しかありません。 そして鎮痛…

コントレイル17

2020年1月8日朝7時のアラームが鳴ります。 朝の医療麻薬と神経疼痛剤と便秘薬を飲んでベッドに戻りましたら。 次の8時のアラームで、オキノームを飲んで、電気カミソリでヒゲを剃りながら、クスリからの覚醒を待つ。それが、私の目覚めの流れです。 そして…

コントレイル16

「5年生存率」という基準があります。 患者のがんの病状を過去のデータから評価する基準といえるかも知れません。 2015年の9月に、私のがんは「5年生存率5%」と評価されました。 私は「5年生存率5%ということは、5年死亡率95%だ」と思いました。 ですから、2…

コントレイル.15

清水先生の表情というのは、 実は、その瞬間の自分の表情なのだ。 そのことに気付くようになったのは、 稲垣麻由美さんの「人生でほんとうに大切なこと」を読んでからです。 清水先生は、患者の心情に寄り添ってくれます。 そして、自分に寄り添ってくださる…

コントレイル14

私は整理します。 「がん患者やその家族に、『精神腫瘍医』の存在を知らせたい」 その想いを形にしたのが、「人生でほんとうに大切なこと」です。 けれども、その本が絶版の危機に瀕します。 そんな時に、その本を読んだ編集者が、「もしも一年後、この世に…

コントレイル.13

「先生「人生でほんとうに大切なこと」が、重版になりましたよね。これは、「もしも一年後、この世にいないとしたら」のおかげ、あの大宣伝のおかげだと思うんです」 私の言葉に、清水先生は、沈黙で先を促します。 「あの本の「おわりに」で、私と稲垣さん…